保存の可能性について

大崎市では解体費用として約2千万円を見込んでおりますが、修繕となるとさらに莫大な金額になることや、老朽化が著しく修繕が厳しいとの判断に至っております。

しかし全国では大崎市内の蒸気機関車より荒廃していた車両が、民間ボランティアの尽力により綺麗に復元された事例が多々あるのです。

例えば山口県山陽小野田市厚狭では「D51 300」をなんと50〜60万円でここまで綺麗に修復しています。

しかも修復したのは鉄道ファンだけではありません。

地域の子供達も一緒になって、皆で綺麗に修復したのです。


なお実際にこの修復を手掛けた方が北九州市からお見えになり、大崎市のシゴハチたちを見て「まだまだ直せる」とお話されております。

一方で、安全面で懸念されているアスベスト問題も「封じ込め作業」は完了しており、これだけでも修繕にかかる費用がグッと下がります。


その他にも「子供がいたずらしたり、上ったりして怪我をしたら危ないじゃないか」といった声も聞きますが、全国で蒸気機関車が保存されてから約40年以上経ちますが、そうした事例は今まで確認されておりません。


「全ての危険な可能性を排除する」という考えは、「自動車や自転車が走る道路は危ないから無くせ」と言っているのと同じようなものです。

子供達の成長を考えるならば、「何が危険なのか?」といった「自分で考えて行動判断できる危険予知力」を高めてあげるために、そうした事を子供たちに教えてあげるのが私たち大人の努めの範疇ではないでしょうか?

考える機会を大人が奪ってはいけないはずです。

その他の問題として「仮に保存したとしても、また数十年先に費用がたくさんかかるのでは?結局地域の負担になるのでは?」といった声も、大崎市内の蒸気機関車が保存されている地域の方からお話をお伺いしました。

もちろん保存整備したとしても、「現状のままでは」そうなるのは避けては通れません。


例えば、大崎市の身近なところだと仙台市にはC60形蒸気機関車「シロクマル」が保存されています。

この蒸気機関車もかつては雨風が当たる「屋外露天」による保存状態でした。

しかしそのままではいけない事だとして、仙台市ではしっかりとした屋根を蒸気機関車のためにかけてくれました。


今、大崎市のように荒廃している蒸気機関車は「屋外露天」です。

蒸気機関車は鉄で出来ていますから、何十年も雨ざらしになれば当然錆びて荒廃します。

その一方で今でもしっかり綺麗に保存されている蒸気機関車は「屋根付き」です。

蒸気機関車を「歴史文化財」として意識している地域では、こうした子供でもわかるような当たり前の事を実施しています。

そして「保存会」が定期的に清掃活動を行う事で、巨額な修繕費用をかけることもせずに蒸気機関車を綺麗な状態で維持できているのです。


現実的に蒸気機関車を維持するために必要となる金銭的な問題として、解体費用2,000万円に対し、保存会による年間の清掃維持費用は10万円未満(全国的な保存事例よりも高く設定)で、単純に考えれば解体費用2,000万円もあれば、200年間の維持費を賄えることになります。また蒸気機関車を歴史文化財として理解している行政では、保存会だけの負担にならぬよう修繕に必要な費用を捻出しているところもあるのです。

大崎市と同じ「シゴハチ」が保存されている岩手県北上市展勝地では、アスベスト対策実施後に車両を移設して、屋根も新しくかけ直しする整備を2019年度に実施しています。桜の名勝地ということもあり、春になると多くの人で賑わいを見せ、「桜と蒸気機関車」を楽しんでいる光景が見かけられます。岩出山の城山公園も桜が綺麗なところですが、そこにもシゴハチがいますね。


「蒸気機関車を見たところで子供達は喜ばない」なんて思われる方もいるでしょう。しかしそれは大人が決めつけることではありません。


実際に、蒸気機関車を見た子供たちは笑顔になります。それを記念撮影する親御さんもいます。そうした何気ない穏やかな日常風景が思い出となり、かけがえのない故郷の景色となると私たちは考えております。

他の保存再整備の事例として、山梨県清里地区では「日本一厳しい保存環境で日本一荒廃した蒸気機関車」とまで揶揄された「C56 149」が復元整備のうえ清里駅に2009年に移設展示され、その後に塗装がまた剥げてきたために2019年には官民一体となった「メイクアッププロジェクト」という企画が実施されました。

この塗装プロジェクトでは行政・大学・観光業者・幼稚園の園児たちなどが参加し、町が一体となったイベントとして大盛況となりました。

こうしたイベントを通じて子供達が郷土の歴史を学び、「地域の宝として守っていかなければいけないもの」として意識してくれたそうです。またボロボロだった蒸気機関車が綺麗になった事で、蒸気機関車だけではなく公園そのものが地域の方々によって綺麗に清掃が行き届くようになり、公園全体が明るくなるといった副作用も。蒸気機関車の保存を通じて得られる事がじつは多かったりします。


人も機械も街並みも、手をかけてあげた分だけ愛着がわくというもの。こうした想いこそが「恒久的な保存」のために何よりも必要なことであり、郷土への愛着心を高めてくれることだと私たちは考えております。


解体したら何も残らないどころか、多大な税金がかかることになってしまいます。しかしそれよりもはるかに安価で、蒸気機関車を保存する事で地域活性化や子供たちの笑顔にも繋がる可能性があるならば、保存は決して無駄なことなどではないはずです。

そして、大崎市にこれまで存在してなかった「保存会」を改めて立ち上げる事で、私たち保存会が保存活動の「旗振り役」となり、本当の意味での蒸気機関車の保存活動をRESTART・再出発させていきたいと考えております。加えて、「大崎市」や「鉄道」に限らず他の地域の鉄道保存会や歴史団体との協力体制も構築し、地域やジャンルの垣根を超えて「歴史」をキーワードとした『みんなで歴史文化財を守る』動きにしていきたいと計画しております。

これが私たち陸羽東線シゴハチ歴史保存会の考える「恒久的な保存方法」です。


全国では蒸気機関車という一つの地域の歴史を守るために、官民一体となって街を盛り上げている地域があります。

全国では蒸気機関車が保存された経緯も忘れ去られ、巨額な税金を投じて解体する地域もあります。

私たちが生きるこの大崎市は、あなたにとってどうあって欲しいですか?